変形性股関節症例の矢状面における歩行の特徴~股関節伸展可動域拡大は股関節症を増悪させる?~

変形性股関節症

前回の記事では変形性股関節症例における歩行時の跛行の特徴について紹介させていただきました.前回はTrendelenburg跛行・Duchenne跛行といった前額面上の跛行を中心に紹介させていただきましたが,今回は矢状面上における変形性股関節症例の歩行の特徴について考えてみたいと思います.

変形性股関節症例の矢状面上における歩行の特徴

変形性股関節症例の矢状面上における歩行の特徴として,立脚終期における股関節伸展角度が小さいといった点が挙げられます.股関節伸展角度が小さい原因として,誰もが考えるのが「股関節伸展可動域制限」や「股関節伸展筋力低下」だと思います.「股関節伸展可動域制限」については答えとしては間違いではありませんが,実は「股関節伸展筋力低下」が立脚終期における股関節伸展角度の狭小化の原因と考えるのは誤りです.というのも立脚終期には股関節伸展筋群である大殿筋はほとんど活動していないからです.

上の図は以前の大腿骨近位部骨折例の記事でもご紹介いたしましたが,立脚終期にはもともと股関節伸展筋群(大殿筋)はほとんど活動していないのです(大殿筋は初期接地時に最も活動しています).腸腰筋は筋の走行から大腿骨頭を臼蓋の後内力へ押し込む作用を有し,一種の擬似臼蓋として股関節の安定性に寄与しているのです.腸腰筋が機能すると骨盤が前傾し前方への推進力が増すのに対し,腸腰筋が機能しないと骨盤が後傾し立脚終期に強くけりだすことができません.したがって股関節伸展可動域が保たれているにもかかわらず,立脚終期に股関節伸展角度が小さい場合には腸腰筋の機能低下を疑ってみる必要があります.

変形性股関節症例の筋力低下については以前の記事でもご紹介いたしましたが,中殿筋の筋力低下に限らず,変形性股関節症例ではインナーマッスルの1つである腸腰筋の筋機能低下が著しいことが明らかにされております.
変形性股関節症蛎800例を対象として人工股関節全置換術前後の中殿筋・腸腰筋の筋萎縮の程度を調査した研究では腸腰筋の筋萎縮の程度が中殿筋に比較して大きいことが明らかにされています.

腸腰筋(大腰筋)には大腿骨頭を臼蓋に対して求心位に保持する作用があり,変形性股関節症例においても腸腰筋の機能改善を図ることが重要だと考えられます.

股関節伸展角度の狭小化は可動域・筋力だけが原因ではない

股関節伸展角度の狭小化は股関節伸展可動域や腸腰筋の機能低下だけが引き起こすものではありません.ここで重要となるのは股関節の矢状面上における臼蓋被覆です.

↑の図は矢状面における寛骨臼と大腿骨頭の関係を示したものですが,骨盤を前傾(股関節を屈曲)すると関節の接触面積が増加して,股関節は安定します.一方で骨盤を後傾(股関節を伸展)すると関節の接触面積が減少して,股関節は不安定となります.実は立脚終期に股関節伸展角度が大きくなると関節の接触面積が減少して,股関節が不安定になってしまい,疼痛が出現することが多いのです.つまり変形性股関節症例は臼蓋被覆を代償する目的であえて股関節伸展角度を小さくして歩行していると考えられます.

実際に変形性股関節症例は歩幅を小さくして歩行時の股関節の伸展を抑えて歩くと疼痛が緩解することが少なくありません.また股関節伸展角度と前方負荷の関係では,股関節の最大伸展角度が2度増えると股関節前方への負荷が24%増加することが明らかにされております.

 

こういった症例の多くは足関節を底屈して前方への推進力を作っていたり,腰椎を前彎することで下半身が上半身に対して後方へ位置させて前方への推進力を作っていることが多いです.そのため理学療法士が変形性股関節症例における歩容を改善しようと股関節伸展角度を拡大させてしまうと,変形性股関節症が増悪してしまう可能性も考えられます.

前額面もそうでしたが正常歩行に近づけることが常に正しいとは限らないということですね.

参考文献
1)Lewis CL, Sahrmann SA, et al: Effect of hip angle on anterior hip joint force during gait. Gait Posture 32: 603-607, 2010
2)Shimizu K, et al: Iliopsoas Muscle Atrophy was Evident in the Patients with Hip Osteoarthritis -MRI Analysis of 800 Cases. JOOAS, 2013

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