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大腿骨転子部骨折に対する手術療法と骨折型・術式別に見た起こりやすい機能低下
大腿骨転子部骨折例は多くが手術適応となりますが,手術方法も様々です.
また手術方法によって手術侵襲の大きさや部位も異なりますので,リハビリ(理学療法・作業療法)や看護を行う上でも,手術方法を把握しておくことが重要となります.
今回は大腿骨転子部骨折例に対する手術療法の詳細をご紹介させていただいた後に,術式別に起こりやすい機能低下について考えてみたいと思います.
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大腿骨転子部骨折の手術療法 CHSとガンマネイルの違い
前回の記事にも書かさせていただきましたが,大腿骨転子部骨折に対する手術療法としてはCHS(compression hip screw)による骨接合術とガンマネイル(γ-nail)による骨接合術が代表的です.
ちなみにガンマネイルというのはギリシャ文字である「γ」に形が似ているのでガンマネイル(γ-nail)と呼称されます.
図のようにCHSはガンマネイル(γ-nail)に比較して荷重部とプレート間の距離が長くなるため曲げモーメントが大きくなります.
一方でγ-nailは荷重に伴う曲げモーメントが小さいため,通常は不安定型骨折例にはガンマネイル(γ-nail)による骨接合術が行われることがほとんどです.
本邦では安定型骨折に対してもγ-nailが用いられることが圧倒的に多いです.
以下にCHSとγ-nailによる骨接合術の手術記録をお示しいたします.
CHSによる骨接合術の手術記録と侵襲筋
①体位:Group1のため整復不要.右下肢を軽度牽引し,股内旋20°・内転0°・屈伸0°とした.
②皮切:大腿骨転子部を外側に触知しそこより骨軸に沿って末梢方向に約10cmの縦皮切を加えた.腸脛靭帯を皮切に沿ってメスで切開し,外側広筋の起始部(大転子部末梢)を大腿骨より切離し外側広筋を前方に反転し大腿骨を露出した.
③骨折部:外側広筋と中間広筋の一部を骨膜剥離匙で剥離した.ガイドスリーブは用いず小転子末梢レベルの外側からNeckの末梢1/3を通過するようにガイドピンを挿入した.骨頭の皮質下約8mm先端が位置するようにした.
④Lag Screw:imageで位置を確認し使用するlag screwの長さを計測した.Lag screwの長さは95mmとし,reamingは95mmで行った.Lag screw95mmを挿入した.
⑤Plate:Plateは3穴,大腿骨軸に密着させるため打ち込み棒とハンマーを使用した(Plateと大腿骨の間に筋肉を挟み込まないように注意,imageで密着し骨軸との一致を確認)
⑥確認:Plateの穴にドリルで穴をあけデプスで計測しscrewを挿入した.創部を洗浄生食で十分洗浄した後,外側広筋,大腿筋膜を1-0バイクリル,皮下もバイクリルで縫合して手術を終了した.
ガンマネイル(γ-nail)による骨接合術の手術記録と侵襲筋
①体位:image下に術側下肢を牽引.
②皮切・整復:まずLag screwを挿入部に約3cmの切開を加えた.外側骨折線から単純鉤とエレバを骨折部に挿入して中枢骨片を強制した.整復後,大転子Tipより1横指中枢から3cm縦切開を加えた.皮切に沿って皮下組織を展開すると大腿筋膜張筋を確認した.大腿筋膜張筋を縦切開し,中殿筋を鈍的に剥離し大転子を指で確認した.
③リーミング:大腿骨前方1/3にオウルで穴をあけ,小転子の高さまで開創した.Guide pinを挿入した.Guide pinにそって大転子内側のReamingを行った.
④インプラント:Φ10mm,頚体角130°のインプラントを挿入した.Lag screwが前後像で頸部下方1/3を通過し,軸位で頸部の中央に挿入できるようにインプラントを設置した.
⑤Lag screw:Lag screwはL85mmを骨頭皮質下約5mmまで挿入した.
⑥Distal locking screw:大腿遠位外側から外側広筋を確認し,L35mmのscrewを挿入した.
⑦確認:創部を洗浄し,筋膜・皮下を縫合した.
CHSとガンマネイルの手術侵襲の違い
手術記録だけを見るとCHSは外側広筋を一度剥離し最終的に再縫合いたしますので,実は筋への侵襲はCHSの方が大きいのです.
しかしながらCHSは安定型骨折に用いられることがほとんどなのでCHSとガンマネイル(γ-nail)を施行した大腿骨転子部骨折例を診ているとCHS例の方が圧倒的に機能低下が少なく,歩行獲得までも早いのです.
これは術式による影響というよりは骨折型の影響(CHSは安定型骨折に対して行われるため)が大きいと考えられます.
またガンマネイル(γ-nail)の場合には手術手技が閉鎖的であるといった点も利点であり,これにより術中の感染を起こしにくいとされております.ガンマネイル(γ-nail)タイプの固定材料にはPFNA(proximal femoral nai anti-rotation)と呼ばれるlag screwの回旋防止に特化したものやアレクサネイルと呼ばれるlag screwが2本構成になっているものなど様々ですが,基本的な原理には大きな相違はありません.
CHSを用いるかγ-nailを用いるかは整形外科医師の好みによるところもあったりしますが,ガイドライン上はCHS・γ-nailどちらで骨接合術を行っても大きな差は無いとされております.
理学療法士にとって重要なのはCHS・γ-nailによる骨接合術後にどのような機能低下が生じやすいかといった点です.
この点に関して表にまとめてみました.
CHSとガンマネイルの術式別に見た起こりやすい機能低下
CHSの場合は大腿骨側方アプローチで大腿筋膜張筋・腸脛靭帯を切開し,その後に外側広筋を骨膜下に剥離し展開が行われます.
よって術後早期にはこれらの筋群に疼痛が生じやすいのが特徴です.
また外側広筋の剥離に伴い膝蓋骨外側支持組織に癒着が生じやすく,膝蓋骨内外側支持組織の硬度に不均衡が起こりやすいのも重要な点です.
膝蓋骨外側支持組織の拘縮は膝蓋骨の運動軌跡を外方偏位させ,外側膝蓋大腿関節の力学的負担を増大させます.さらにCHSにはSliding機構が備わっており,Lag screwがSlidingして骨折部へ圧迫力が加わることで骨癒合が促進されます.
Slidingに伴いLag screw尾部が大腿筋膜張筋や滑液包に摩擦性の炎症を引き起こすと,大腿近位外側部に疼痛が出現することがあります.
また大腿筋膜張筋・外側広筋といった外側膝蓋支帯に連結を持つ筋群に侵襲が加わりますので,膝関節屈曲制限が生じやすいのもCHSの特徴です.
γ-nailの場合には中殿筋・大腿筋膜張筋・外側広筋の侵襲による影響よりも骨折型(不安定型骨折)による影響が圧倒的に大きいのですが,以前の記事でご紹介したように骨折に伴う浮腫や頸部短縮に伴うモーメントアームの短縮による機能低下が生じることがほとんどです.
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今回は大腿骨転子部骨折例における術式と術式別に起こりやすい機能低下について考えてみました.次回は骨接合術後に起こることが多いsliding(telescoping)について考えてみたいと思います.
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