前回は二重課題トレーニングについて紹介させていただきました.
近年,理学療法士も介護予防に参画する機会が増えておりますので,転倒予防を目的としてさまざまな運動指導をする機会があると思います.
転倒予防を図る上では筋力・バランス能力・歩行能力といった運動機能を向上させることが重要となりますが,実際にどういったトレーニングが最も有効なのかに関しても様々な研究で明らかにされてきております.
今回は転倒予防に有効なトレーニングについて理学療法士の視点で考えてみたいと思います.
目次
転倒予防に有効な運動(トレーニング)とは?
これは転倒予防に関する介入研究を複数集めて統合したMeta-Analysisという研究になります.
この研究によると転倒予防に有効なのは太極拳,Multicomponent excercise(複合的な運動)であり,筋力トレーニング,歩行トレーニングといった単一の種類の運動では十分な転倒予防効果は得られなかったと報告されております.
これは対象にもよるのだと思いますが,虚弱な対象であれば筋力トレーニングを継続することで転倒率が減少したといった前向き調査はいくつか散見されます.
しかしながら元気な方も含めれば,筋力トレーニング単一では転倒予防を図ることは難しいわけです.
赤線を引いているのが有効(Relative riskの95%信頼区間が1以下になっているのがわかります),青線を引いている有効でないといった風に判断してください.
バランストレーニングは単独でも転倒予防に有効
また他のreview研究の結果にはなりますが,バランストレーニングに関しては単独でも転倒予防効果が高いことが明らかにされております.
筋力トレーニングによって転倒は予防できる?- バランストレーニングによって転倒は予防できる?
- 太極拳によって転倒は予防できる?
有酸素運動によって転倒は予防できる?敏捷性トレーニングによって転倒は予防できる?ストレッチによって転倒は予防できる?
まとめるとこんな感じです.なぜバランストレーニングや太極拳が有効なのかと考えてみますと,
- 自分の体重がかかる(立った姿勢)運動である
- 前後左右へのすばやい運動を含み, 体と眼の相互作用がある運動である
- 上下の振幅運動を含み, 太ももと股関節周辺の筋肉が働く運動である
こういった理由が考えられると思います.
加えてバランストレーニングには,筋力を向上させるような要素というのも少なからず含まれますので,そういった意味合いで単純な筋力トレーニングよりも有効性が高いのではないかと思います.
考えてみますと座位でのトレーニングというのはいくら座位での筋力が向上したとしても動作に汎化されにくいというのは想像に難くないと思います.
先ほども申し上げましたが,もちろん虚弱で筋力低下が著しい場合には,座位でのトレーニングにあっても十分に転倒予防に効果的であることは言うまでもありません.
対象者の身体機能レベルにもよりますが転倒予防を目的とした運動を行う場合にはできるだけ立った姿勢で運動を行うことが重要だと思います.
また単一の運動種類ではなく様々な種類の取り入れるというのがとても大切ですね.
実際のところ単一の種類の運動ですと対象者も飽きてしまって継続が難しいですしね.
最近は地域の通いの場で体操を使って介護予防に取り組んでいる市町が増えてきていると思いますが,昨今はさまざまなご当地体操があります.
体操を選択する際のポイントとしては,バランストレーニングが含まれているか,複数の種類の運動を含んでいるかといった視点が非常に重要だと思います.
あとはもちろん対象者が簡単に取り組むことができ,楽しんで運動ができるといった点も重要なポイントだと思います.
参考文献
1)Gillespie LD, et al: Interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev12: CD007146, 2012
2)Sherrington C, et al: Effective exercise for the prevention of falls: a systematic review and meta-analysis. J Am Geriatr Soc56: 2234-2243, 2008
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