今さら聞けないOKC・CKC

運動療法・物理療法
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OKCとCKCって昔からある概念ですが,荷重下・非荷重下での運動といった認識にとどまっている理学療法士・作業療法士も少なくないと思います.

今回は今さら人には聞けない,OKCとCKCについて考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目次

OKC・CKCって?

OKC(open kinetic chain)とCKC(closed kinetic chain)という概念は1955年にSteindlerにより定義されたものです.

このSteindlerは工学分野で提唱された運動連鎖(kinetic chain)の概念を人体の四肢の動きに応用したのです.

われわれの上肢・下肢は剛体と仮定される体節が重複して連結しているもので,運動連鎖を複雑な運動単位によって構成された一連の関節の連結と定義して分類がなされております.

SteindlerはOKCというのは「連動する関節のうち遠位部の関節が自由に動くことができる場合の運動」であり,CKCは「連動する関節のうち遠位部の関節の自由な動きが外力により制限(固定)されているような場合の運動」であると定義したわけですが,この定義が後にさまざまな論争を生むのです.

 

結論から申し上げますと,すべての動作をOKCとCKCに分けることはできません.

例えば自転車のペダリング動作は,足がペダルに固定されているのでCKCの要素を含んでおりますが,ペダルは自由に動き固定されていないのでOKCの要素も含んでいます.

したがってペダリング運動はSemi-CKCなどと定義されることも多いです.

スキー滑走時の下肢の動きというのは,足はスキーに固定されておりますが,スキーは自由に動き固定されておりませんので,これもSemi-CKCと考えることができるでしょう.

こういった混乱を避けるためには, なるべくOKC・ CKCという分類を単純に人体の運動に適用せず, 非荷重位での運動,荷重位での連動,あるいは近位が固定されている運動遠位が固定されている運動と明確に表現すべきであるといった意見もあります.

したがって最近は,OKCを手や足を床面から離した非荷重位での運動として,CKCを手や足を床面につけた荷重位での運動として定義づけているものもみられます.

 

下肢の運動を例に考えてみますと,Leg extensionや歩行の遊脚期は近位が固定されて遠位が自由な伸展運動を行っていますのでOKCと考えることができるでしょう.

一方でLeg pressや歩行の立脚期は,遠位が固定されて近位が自由な伸展運動を行っていますのでCKCと考えることができるでしょう.

 

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OKC・CKCの利点・欠点

OKC

利点

  • 目的とする筋に個別にアプローチしやすい
  • 荷重制限のある時期にも運動を実施できる

欠点

  • 運動による筋活動が動作中の筋活動とは異なるので動作学習に繋がりにくい
  • 細かい指示入力が困難なクライアントには導入しにくい

 

 

 

 

 

CKC

利点

  • 関節への圧縮負荷,筋の共同収縮によって求心性受容器の活動が増加し,筋だけでなく神経系を賦活できる
  • 細かい指示入力が困難なクライアント(認知症例など)でも運動を実施しやすい
  • 運動による筋活動が動作中の筋活動と類似しているので動作学習にもつながりやすい

欠点

  • 個別の筋にターゲットを絞って運動を行いにくい(代償パターンが働きやすい)
  • 荷重制限がある時期には運動が実施できない

 

 

 

 

 

 

起始と停止の逆転

運動学的には筋の両端のうち筋収縮時に固定されているほうを起始とよび,動きのあるほうを停止または付着とよびます.

一般的に体幹に近い近位端を起始,反対の遠位端を停止とよびます.

OKCとCKCにおける筋の作用の大きな違いは,この起始と停止の関係が逆転することにあります.

大腿四頭筋を例に考えてみると,OKCの場合(Leg extension,椅座位からの膝伸展運動)は起始である大腿骨あるいは骨盤が固定(実際には股関節が固定)されており,停止側である脛骨が動きます.

一方でCKCの場合(椅子からの立ち上がり)には脛骨が固定(実際には足関節が固定)された状態で,大腿骨と骨盤が動き,起始と付着の関係が逆転します.

OKCの場合には,大腿四頭筋が近位端に向かって収縮し,CKCの場合には遠位端に向かって収縮しているかのように見えますが,いずれも筋は起始・停止がともに中心部に向かって等しく収縮しているといった点に注意が必要です.

起始と停止の逆転は近位端と遠位端のどちらを固定するかにより起こりますので,固定筋の作用が重要でとなります.

先ほどの大腿四頭筋の例の場合には,OKCの場合には股関節(骨盤)が,CKCの場合には足関節(脛骨)の固定が重要となるわけです.

したがってOKCだけでなくCKCでもトレーニングをしなければ,この足関節の固定作用の学習ができませんので,起始と停止の逆転がうまくできないことになります.

特にOKCで発揮される筋力が,CKCではうまく発揮されないような場合には,この固定作用を考慮してトレーニングを行う必要があります.

 

 

 

 

 

 

整形外科疾患におけるCKCの有用性について

一般的なOKC・CKCにおける利点・欠点については上述いたしましたが,病態にによってCKCによるトレーニングの有効性が明らかにされておりますので,そちらを簡単にご紹介いたします.

 

 

 

 

 

前十字靭帯損傷

まずCKCでの運動は前十字靭帯損傷例に対してその有効性が核にされております.

その理由はCKCでの運動がOKCでの運動に比較して,脛骨の大腿骨に対する前方への剪断力を低下させることができるためです.

ある報告によるとOKCでの座位での膝関節の等尺性伸展および屈曲運動と,CKCでの片側スクワット運動では,CKC運動の方が有意に脛骨の大腿骨に対する前方剪断力が少ないことが明らかにされております.

またこの研究によるとOKCにおける座位での膝関節伸展運動では,膝関節屈曲 30 °位で前方への剪断力が高くなり,屈曲角度が増すと前方への剪断力は小さくなることが明らかにされております.

つまり膝関節伸展域での大腿四頭筋の筋力強化運動を行う場合には,CKC での運動が前十字靭帯にストレスをかけずに実施できると考えることができます.

なぜCKCでの運動によって膝関節伸展域での前方への剪断力小さくなるかといった点については,大腿四頭筋とハムストリ ングスの同時収縮が得られるためと考えられております.脛骨の大腿骨に対する前方への剪断力を減じるためには,特に大腿四頭筋と合わせてハムストリングスを同時収縮させることが重要なわけです.

 

 

 

 

 

膝蓋大腿関節痛

CKCでの運動は膝蓋大腿関節の圧迫力を減少させることができることも明らかにされております.

ここで勘違いしてはいけないのは,一概にCKC の運動 が膝蓋大腿関節の圧迫力を減少させるということではないといった点です.

この図は関節角度と膝蓋大腿関節の圧迫力との関係を見たものですが,膝関節屈曲 45 °付近 まではレッグプレス(CKC)の方が,座位での膝関節伸展運動(OKC)よりも圧迫力が小さいわけですが,45°を超えるとレッグプレス(CKC)の方が,座位での膝関節伸展運動よりも圧迫力は強くなっているのがわかります.

つまり単にCKC が膝蓋大腿関節の圧迫力を減らすというわけではなく,膝蓋大腿関節に痛みを持つ患者に対して,大腿四頭筋の筋力強化運動を処方する場合,膝関節屈曲 45 °あたりを基準に,どちらの運動を行うか考慮すべきだと考えられます.

 

 

 

 

 

 

CKCとOKCトレーニングの選択

OKC・CKCトレーニングの利点・欠点については上述いたしましたが,では実際にどのようにCKC運動とOKC運動を選択していけばよいのでしょうか?

またOKCの筋力が強いクライアントはCKCの筋力も強いのではないかと考えられる方も多いと思いますが,実はこれらの筋力には一部の関節角度で特異性があるのです.

すなわちある角度ではOKCでの筋力が強いにもかかわらずCKCでの筋力が低い症例がいたり,OKCでの筋力が弱いにもかかわらずCKCでの筋力は強い症例も存在するわけです.

具体的には膝関節の屈曲角度が45°を超えるとOKCの筋力とCKCの筋力に相関がみられるわけですが,膝関節0°~45°ではOKCの筋力とCKCの筋力とに有意な相関がみられません

したがって椅子からの立ち上がりのように深い屈曲角度からCKC筋力を発揮するような場合には,CKCでの筋力とOKCでの筋力との間に高い相関関係があるため,椅子からの立ち上がりが筋力の問題により困難な場合には,深い屈曲角度でのOKCで膝伸展トレーニングを行う方法は有効であると考えられます.

しかしながら立位や歩行時での膝折れなど軽度屈曲位でのCKCでの筋力が低下している場合には,軽度屈曲位からの膝伸展筋力トレーニングでOKC膝伸展筋力を強化しても,軽度屈曲位のCKCでの筋力との相関が低いため,効果が得られません.

このように伸展位に近い肢位でのOKCでの運動というのはCKCでの運動に汎化されないと考えた方が良いでしょう.

 

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今回はOKCとCKCでのトレーニングについて考えてみました.

OKC・CKCの運動の利点・欠点をおさえておくことがまずは重要ですが,関節角度によってもその特性が変化しますので,関節角度と合わせてOKC・CKCでのトレーニングを再考する必要があるでしょう.

 

 

参考文献
1)Mc Mullen J, : A kinetic chain approach for shoulder rehabilitation. J Athl Train 2000; 35(3): 329–337
2)Bunton EE, et al.: The role of limb torque, muscle action and proprioception during closed kinetic chain rehabilitation of the lower extremity. J Athl Train 1993; 28(1): 10–11, 14, 16, 19–20
3)Steinkamp LA, Dillingham MF, et al.: Biomechanical considerations in patellofemoral joint rehabilitation. Am J Sports Med 1993; 21(3): 438–444.
4)Lutz GE, Palmitier RA, et al.: Comparison of tibiofemoral joint forces during open-kinetic-chain and closed-kinetic-chain exercises. J Bone and Joint Surg 1993; 75A(5): 732–739.
5)市橋則明,他 : 脚伸展動作と膝伸展動作の運動学的分析. 理学療法学24: 341-346, 1997

 

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