人工股関節全置換術における術式は筋力や身体機能に影響を与えるのか?

人工股関節全置換術
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目次

 THAにおける術式は筋力や身体機能に影響を与えるのか? 

人工股関節全置換術と言えば,以前は後外側アプローチが主流でしたが,最近は前外側アプローチや外側アプローチの手術件数も増加してきております.

術後数週のデータを見ると,明らかに前方アプローチの機能改善が良好であるといったデータが多く出されておりますが,一方で長期的には術式による差はあまり無いといったデータも散見されます.

実際に臨床で人工股関節全置換術例をみていても,短期的には前方アプローチが機能的に良好な症例が多いですが,長期間が経過すればあまり変わらないといった印象を受けます.

今回ご紹介いたします論文では,術後1年の筋力や身体機能に後側方アプローチ,前方アプローチ,側方アプローチといった3つの術式間で差があるかどうかと検証がなされております.

 

 

 

 

 

 

 紹介する論文 

Hip Int. 2019 Jul;29(4):405-411. doi: 10.1177/1120700018810673. Epub 2018 Nov 13.

Muscular strength and function after total hip arthroplasty performed with three different surgical approaches: one-year follow-up study.

Winther SB, Foss OA, Husby OS, Wik TS, Klaksvik J, Husby VS.

今回ご紹介いたします論文は2019年に掲載された新しい論文です.

 

 

 

 

 

 

 研究背景と目的 

Surgical approach influences short-term muscular strength, and leg-strength asymmetry has been demonstrated after total hip arthroplasty (THA). We evaluated muscular strength, physical function and patient-reported outcome measures (PROMs) up to 12 months postoperatively, in patients operated on using 3 different surgical approaches.

人工股関節全置換術例における術式が術後短期的な筋力や筋力の非対称性におよぼす影響は過去にも多く報告されております.今回の調査では,後側方アプローチ,前方アプローチ,側方アプローチといった3つの術式間で術後1年における患者立脚型アウトカムに相違があるかを明らかにすることを目的としております.

 

 

 

 

 

 

 対象および方法 

60 patients scheduled for primary THA were allocated to the direct lateral (DLA), posterior (PA) or anterior (AA) approach. The following parameters were evaluated: leg press and abduction strength, pain, 6-minute walking test, Harris Hip Score and Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score – Physical Function Shortform (HOOS-PS).

対象は初回人工股関節全置換術全置換術を行った60例とし,これらを側方アプローチ,後方アプローチ,前方アプローチに割り付けております.アウトカムの評価ですが,レッグプレスによる下肢伸展筋力,股関節外転筋力,疼痛,6分間歩行距離,Harris Hip Score,HOOSとしております.

 

 

 

 

 

 

 結果 

Abduction strength in the DLA group was significantly more reduced than the PA and AA groups 12 months postoperatively (p < 0.001). A significant interleg difference in abduction (p < 0.01) and leg press (p < 0.03) persisted in all groups up to 6 months, and up to 12 months in the DLA (p < 0.05). In the AA group, interleg difference in leg press was present up to 12 months (p = 0.01). Pain scores were higher in the DLA than the AA group at 6 months (p = 0.01). Patients in the PA group had better HOOS-PS score than those in the DLA group 3 months postoperatively (p = 0.02). No intergroup differences in pain or PROMs were found 12 months postoperatively.

結果ですが,側方アプローチ群の股関節外転筋力は後方アプローチ,前方アプローチに比較して,有意に低下しておりました.

また術側下肢の筋力(下肢伸展筋力・股関節外転筋力)は,全ての術式で術後6ヶ月の段階では非術側レベルまで改善しておりません.

さらに側方アプローチでは術後1年が経過しても術側の下肢筋力は非術側レベルまで改善しておりません.

前方アプローチでは股関節外転筋力は術後1年で非術側レベルまで改善しておりますが,下肢伸展筋力は術後1年でも非術側レベルまで改善が得られておりません.

疼痛に関しても側方アプローチで前方アプローチに比較して術後6か月後の疼痛が有意に強く,HOOSに関しては後方アプローチで側方アプローチに比較して有意に機能が路良好でありました.

疼痛や患者立脚型アウトカムについては術後1年が経過した段階では,術式間の相違は見られておりません.

 

 

 

 

 

 

 考察 

Patients operated via the DLA had reduced muscular strength, HOOS-PS scores and higher pain scores than those who underwent PA and AA type surgery. The non-operated leg was significantly stronger than the operated leg in all groups 6 months postoperatively and this persisted up to 12 months postoperatively for the DLA and AA groups. Clinical Trial Protocol number: ClinicalTrials.gov (NCT01506024).

側方アプローチは手術に伴う筋力低下の程度が大きく,HOOSスコアや疼痛のスコアが後方アプローチや前方アプローチに比較して不良であることが明らかにされております.

術後6ヶ月では全てのアプローチで非術側レベルまで筋力が改善しておらず,側方アプローチや前方アプローチでは術後1年が経過しても非術側レベルまで筋力が改善しないということになります.

 

 

今回は術後1年の筋力や身体機能に後側方アプローチ,前方アプローチ,側方アプローチといった3つの術式間で差があるかどうかを検証した論文をご紹介させていただきました.

こういった研究は本邦でも行われておりますが,この研究の意義はクライアントの変形性股関節症の重症度によらず3つのアプローチに割り付けて研究が行われているところです.

傾向としては高度の変形を合併した変形性股関節症例ほど術野が広い後方アプローチが選択されることが多く,術前の状態が不良な症例ほど後方アプローチが選択されることが多いので,結果として後方アプローチよりも前方アプローチの方が術後の機能が良好であるといった発表内容が多いのですが,今回の結果からすると術前の機能レベルが同等であれば術後1年における患者立脚型アウトカムには術式間で差は無く,筋力に関してはむしろ後方アプローチの方が良好であると考えられます.

もちろんShort rotatorなんかの機能は前方アプローチの方が良好であったりするのかもしれませんが,下肢伸展筋力・股関節外転筋力といった主要筋力に関しては後方アプローチの方が良好であるといった結果だと思います.

人工股関節全置換術例の術式に応じた理学療法戦略の構築に役立てられる結果ではないでしょうか?

 

 

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