経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の誤報道に注意

運動療法・物理療法
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目次

 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の誤報道に注意 

経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の誤報道に関する報道が広がっております.

きっかけは2019年3月に放送されたNHKの番組ですが,そもそもこういった健康番組というのも視聴率のためか,過剰な効果をうたったものが少なくありませんよね.

今回は理学療法士の視点でこの経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の誤報道について考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 

 日本臨床神経生理学会からの通知 

日本臨床神経生理学会は,2019年3月13日にNHKが放送した番組の中で,tDCSが特集されたことを受けて対応をしております.

日本臨床神経生理学会は,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)について,マスコミの報道や機器の宣伝に影響され,危険な使用をしないよう注意を喚起しております.

近年,自分で刺激できる簡易な装置が一般に販売され,スポーツや算数の成績向上に役立つという効能がうたわれておりますがが,同学会では「これらの効果は科学的な検証が十分になされたものではなく,装置の安全性の検証も不十分である」として警鐘を鳴らしております.

 

 

 

 

 

 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)についての注意喚起 

この度2019年3月13日にNHKの番組でも放映されましたように,近年、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は自分で刺激できる簡易な装置が一般に販売されるようになり、スポーツや算数の成績向上に役立つという効能が謳われてきています.

しかしこれらの効果は科学的な検証が十分になされたものではなく,装置の安全性の検証も不十分です.

番組では当学会のtDCSの安全性に関する提言が引用され,刺激の上限について述べられていましたが,この刺激以下の設定であれば安全であるというものではありません.

当学会の提言では,tDCSの安全な刺激パラメーターの範囲はまだ十分確立したものではなく,病院や研究施設の倫理委員会の承認を得てから行うものとしており,方法に精通した医師の管轄のもと科学的な検証のために行うことを前提としております.

国際的な機関であるinternational federation of clinical neurophysiology(IFCN)のガイドラインでも,同様の注意勧告がされています.

 

 

 

 

 

 

 どのような報道がなされたのか? 

このNHKの番組ではtDCSに関して様々な効果が検証されました.

まず1つはベンチプレス競技において,トレーニングに合わせてtDCSを使用するとトレーニング効果が高まるといったものです.

この番組では,通常のトレーニングに加えて2年間tDCSを用いて刺激を行うと,スクワットの記録が30kgも向上しあっというものです.

ただ劇的に記録が伸びたのは本当に電気刺激装置を使ったことによるものなのでしょうか?

この番組ではパフォーマンス向上の機序として,電気刺激が脳の「運動野」を活性化することで記録が向上したと報道しております.

私が説明するまでもありませんが,脳の運動野から出された電気信号によってわれわれの筋は収縮します.

しかしながら疲労が蓄積されると,この信号は弱くなり筋肉が十分に収縮しなくなります.

運動野に電流を流し,細胞を活性化することで電気信号が強まり筋の収縮が持続するといった機序で説明がなされております.

こういった機序により,集中的なトレーニングを長期的に継続できるようになり,トレーニング効果が高まると説明しております.この番組ではベンチプレスの他に,スキージャンプや垂直跳びのパフォーマンス改善の例も提示されております.

 

 

 

 

 

 何が問題か? 

問題なのは数例のアスリートのパフォーマンスが向上したというだけで,厳密な臨床試験が行われたわけではないといった点です.

つまりtDCSの効果に関しては,あくまでパフォーマンスを向上させる可能性があるといった段階で,これからさらに多くの科学的根拠が示される必要があります.

またご存じのとおりtDCSというのは,脳卒中片麻痺例の運動機能向上を目的として本邦でも用いられてきたものです.

残念ながら本邦ではまだ医療機器として認められてはおりません.

また当然ながら安全性の問題も残ります.

数回単位での使用に関してはある程度安全性が確認されているわけですが,数か月あるいは数年間使い続けることによる弊害というのはまだわからないわけです.

 

 

 

 

 

 

 勉強の成績が上がる? 

さらにこの番組ではtDCSの刺激によって勉強の成績にまで改善が得られるといった内容も取り上げられております.

微弱な電気でストレスを抑制する働きを持つ背外側前頭前野を刺激すると,成績が向上するといった論文をもとにしております.

数学に苦手意識を持つ被験者たちに電気刺激を行って,数学の問題を解いてもらい反応時間を測定すると,電気刺激を行う前と比べて問題を解く時間が短縮したといったものです.

この話題はアスリートのパフォーマンス向上とは異なり,多くの学生に関連する話だけあって本当に危険です.

繰り返しにはなりますが,数回単位での使用に関してはある程度安全性が確認されているわけですが,数か月あるいは数年間使い続けることによる弊害というのはまだわからないわけです.

微弱電流は,ブームになりつつありますが,SNSでも乾電池等の身近な材料で電気刺激機器を自作してしまうという人たちが現れている状況もあり,やけどの事故も報告されている状況です.

 

今回は理学療法士の視点でこの経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の誤報道について考えてみました.

比較的理学療法士にとって身近になってきている電気刺激ですが使い方を間違えれば有害であることは言うまでもありません.

われわれは専門家ですからこういった情報に流されず,正しい情報を発信していく必要がありますね.

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