ストレッチショートニングサイクル(SSC)って何?

運動療法・物理療法
スポンサーリンク
スポンサーリンク

目次

ストレッチショートニングサイクル(SSC)って何?

理学療法士・作業療法士であればストレッチショートニングサイクルという言葉を聞いたことがある方も多いと思います.

ヒトの動作や筋の機能を理解する上では,ストレッチショートニングサイクルを理解しておくことは非常に重要です.

今回は理学療法士の視点でストレッチショートニングサイクルについて考えてみたいと思います.

 

 

 

 

ストレッチショートニングサイクル(SSC)とは?

ストレッチショートニングサイクル(Stretch Shortening Cycle)とは,強くかつ速く伸張された筋(腱)がその弾性エネルギーと筋内の受容器である筋紡錘の伸張反射作用により,直後に強くかつ速く短縮される機能を指します.

SSCを利用した具体的な例をいくつかお示しした方が分かりやすいと思います.

例えば反動をつけないジャンプ動作よりも反動をつけたジャンプ動作の方が高く跳躍できますよね?

ジャンプ動作では,しゃがみ込むことでヒラメ筋や大腿筋膜張筋の筋が引き伸ばされます.

同時に筋が収縮して引き伸ばされることに耐えようとするため,両端の腱が伸ばされて弾性エネルギーとして力を蓄えます.

しゃがみ込みから跳び上がる瞬間,筋の収縮力に加えて,腱の弾性エネルギーが解放されることで全体として大きな力を得ることができるわけです.

もう1つ例をあげると,椅子からの立ち上がり動作です.

立ち上がり動作でははじめに体幹を前屈(骨盤を前傾)することで,大殿筋が引き伸ばされます.

同時に大殿筋が収縮して引き伸ばされることに耐えようとするため,先ほどのジャンプ動作と同様に弾性エネルギーが蓄えられます.

素早くかつ十分に前屈した状態から,離臀する瞬間に,大殿筋の収縮力に加えて腱の弾性エネルギーが解放され,効率的に立ち上がり動作を行えるわけです.

 

筋が力を出し始めてから最大の筋力を発揮するまでには,わずかですが時間がかかります.

力が必要な瞬間から力を出し始めたのでは,最大筋力に達する前に動作が終わってしまいます.

ストレッチショートニングサイクルでは反動動作の段階ですでに筋肉が収縮を始めており,主動作で最大筋力を出力することが可能になります.

このようなストレッチショートニングサイクルを利用したトレーニングはプライオメトリクスと呼ばれ,瞬発力を要求されるようなスポーツ分野ではトレーニングとして頻繁に用いられます.

 

 

 

 

ストレッチショートニングサイクルの機序

ストレッチショートニングサイクルにかかわる神経筋機構としては,①伸張反射,②弾性エネルギーの蓄積と利用,③予備緊張,④ゴルジ腱反射に対する制御機椛が関係します.

 

 

①伸張反射

ストレッチショートニングサイクルにおいて短時間に大きな力が発揮できるのは伸張反射による影響が大きいのです.

筋が急激に引き伸ばされると,筋内の感覚受容器である筋紡錘が筋の伸張の速度と長さを感知して興奮し,感覚神経(Ia線維)を介して脊髄にインパルスを伝え,脊髄を経由し,運動神経(α運動神経)を経て筋にインパルスを送り,筋の短縮が生じます

このような一連の作用を伸張反射と呼び,ストレッチショートニングサイクルにおいて,短時間に大きな力が発揮できる主要なメカニズムであるとされます.

ここで重要なのは伸張反射を誘発するためには,素早く筋を伸張する必要があるといった点です.

先にお示しした立ち上がり動作においても,ゆっくりと体幹を前傾して立ち上がりを行った場合には,伸張反射が誘発されませんので,ストレッチショートニングサイクルを効率的に利用することができません.

 

②弾性エネルギーの利用

ストレッチショートニングサイクルにおいては,筋が伸張性収縮や等尺性収縮を行う局面で,腱が弾性エネルギーを蓄え,続いて行われる短縮性収縮の局面において弾性エネルギーが利用される現象が起こり,このことが大きなパワーを発揮することができるメカニズムの-つと考えられます.

筋は腱を介して骨に付着しており,筋が収縮すると腱が引っ張られて関節の動きが発生します.

筋と腱は相互に関連して機能することから,筋腱複合体と呼ばれております.

筋が強く収縮して大きな力を出すと,筋が腱よりも硬くなりますので結果として腱が引き仲ばされ,バネのような弾性を生じるわけです.

ストレッチショートニングサイクルを考える上ではこの腱の弾性エネルギーは欠かすことができません.

 

 

 

③予備緊張

筋が引き伸ばされる前に,あらかじめ力を発揮することを予備緊張と呼び,予備緊張により素早い大きな力を発揮することが可能となります.

適切な予備緊脹が行われると,筋の伸張を最小限に抑えることができ,トレーニングを積んだ選手では無意識のうちにタイミングよく予備緊張が行われていることが明らかにされております.

例えば,台から跳び下りて着地した後に素早く切り返してジャンプする動作においては,着地前の空中において下肢の筋群の適度な予術緊張を行うことによって,着地してから切り返す動作を素早く行うことが可能となり,跳び上がる動作において短時間に大きな力を発揮することができるようになっているのです.

 

 

 

④ゴルジ腱反射に対する制御機構

ゴルジ腱反射により,通常は発揮される筋力が抑制されますが,ストレッチショートニングサイクルにおいては,ゴルジ腱反射による筋力発揮の抑制作用に対して,上位中枢が制御する働きを生じ,伸張性収縮後に動作を切り返して短縮性収縮を行ったときの筋力の低下を防ぐことができる機構が備わっております.

腱が急激に引き伸ばされると,腱自体の描傷を防ぐために筋を弛緩させようとするゴルジ腱反射が生じます.

腱内の感覚受容器であるゴルジ腱器官は,腱の伸張力を感知して興奮し、感覚神経(Ib線維)を介して脊髄にインパルスを伝え,脊髄を経由し,運動神経(α運動神経)を抑制して,筋力の発揮を低下させます.

ジャンプからの着地時に膝の力が抜ける現象が起こることがありますが,これは主としてゴルジ腱反射の作用によるものと考えられます.

ストレッチショートニングサイクルでは,このゴルジ腱反射を抑制することで,大きな収縮力の発揮が可能となります.

 

今回は理学療法士の視点でストレッチショートニングサイクルについて考えてみました.

ストレッチショートニングサイクルを効率的に出現させるためには,伸張反射の誘発,弾性エネルギーの利用がカギになります.

安全のためにゆっくりとした動作を指導することが多いと思いますが,クライアントの状況によっては素早く動作を行うことで効率的に動作が行えることもありますので,ストレッチショートニングサイクルを考慮した上で動作指導を行えるとよいですね.

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました