人工股関節全置換術(THA)後になぜ膝関節痛が起こるのか?

人工股関節全置換術
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目次

人工股関節全置換術(THA)と膝関節機能障害

人工股関節全置換術(THA)後に膝関節痛を訴える症例って少なくありませんよね.

膝関節痛が出現する原因としては,元々強い疼痛のあった股関節が人工関節に置換されたことによって,それまでマスクされていた膝関節痛が出現するといった場合と,人工股関節全置換術(THA)によって生じたアライメント変化によって,膝関節に力学的なストレスが生じ,膝関節痛が出現するといった場合があります.

今回は人工股関節全置換術(THA)後の膝痛について考えてみたいと思います.

 

 

 

 変形性股関節症を原疾患とする人工股関節全置換術(THA)例の特徴 

股関節は体幹と下肢を結ぶ関節であり,その疼痛や機能障害は脊柱や膝関節の病態と関連することがあります.

変性疾患である股関節症患者は,人工股関節(THA)によって股関節が構造的に変化しても,変形に至った過程において代償動作がすでに学習されていることが多いわけです.

これらの代償動作は股関節のみならず,体幹や膝関節など隣接関節へも影響を及ぼし,複雑な臨床像を呈します.

本邦における人工股関節(THA)の基礎疾患としては,発育性股関節形成不全(DDH)が圧倒的に多いわけですが,股関節機能障害が進行すると,股関節の解剖学的破綻をきたし,膝関節にも影響を及ぼすことになります.

 

 

 

 本邦における高齢者の変形性膝関節症の罹患率 

わが国の変形性膝関節症の頻度は大規模コホート調査によると,60歳代では男性が35.2%,女性が57.1%と報告されております.

こう考えると変形性股関節症に併発する変形性膝関節症はより高頻度であることが予測されます.

膝関節痛を有する末期股関節症に対象を限定した調査によると,同側に変形性膝関節症を合併している者は全体の29.0%,反対側に変形性膝関節症を合併している者は全体の69.0%にものぼると報告されております.

特徴としては対側の変形性膝関節症例が多いといった点が重要ではないかと思います.

特に術前の機能不全が著しい変形性股関節症に対する人工股関節全置換術は,罹患関節のみならず隣接関節への影響も危惧されることから,それらの影響を考慮した術後の理学療法介入が重要となります.

 

 

 

 人工股関節全置換術(THA)前後の膝痛のパターン 

①術前から膝関節痛の訴えがあり,術後にも膝関節痛が残存する.

②術前に膝関節痛の訴えがあったが,,術後に膝関節痛が軽減または消失する.

③術前に膝関節痛の訴えがなかったが,術後に膝関節痛が出現または増加する.

上記のパターンはさらに術側に膝関節痛がある場合と非術側に膝関節痛がある場合に分けられます.

術前後のアライメント変化,疼痛部位,疼痛の程度に着目して評価を行い,原因追及を行うこととなります.

 

 

 

 Coxitis knee 

Coxitis kneeは1974年にSmillieによって提唱された概念です.

荷菫軸としての原点である股関節の中心は膝関節・足関節の荷重面に影響を及ぼすことから,股関節病変がその隣接関節である膝関節の病態と強く関係します.

そのため変形性股関節症例における罹患側の膝関節には外旋と外反を生じることが多いことが明らかにされております.

脚長差を代償するために生じる膝関節障害はlong leg arthropathyとよばれ,特に変形性股関節症と同側の膝関節が外反,反対側の膝関節が内反方向に変形することが多いのですが,これをwind swept deformityとと呼びます.

 

 

 

 人工股関節全置換術(THA)前後に変化しうる膝関節痛 

股関節疾患において大腿部・膝関節までの疼痛を訴える頻度は47.0%と報告されてております.

また変形性股関節症例において,変形性膝関節症がなくても34.6%に関連痛としての膝痛があることが指摘されております.

術前の膝関節痛は,術側・非術側ともに膝関節症との関係性がみられず,術前にあった膝関節痛が人工股関節全置換術(THA)後に軽減または消失している症例が多く存在すると報告されております.

人工股関節全置換術(THA)前の術側膝関節痛は,①変形性股関節症の関連痛としての膝関節痛である可能性と,②変形性膝関節症の症状が変形性股関節症の症状にマスクされている可能性があることを念頭に置く必要があります.

そのため単純X線画像からわかる膝関節変形の程度と膝関節痛を結び付けることなく,変形性膝関節症の症状なのか,変形性股関節症からの関連痛なのかについて理学療法評価から原因を追及する必要があります。

人工股関節全置換術(THA)後に術側の膝関節痛が軽減すれば,変形性股関節症の関連痛と解釈できる可能性があるため,術前後で評価を行う必要があります.

一方で,変形性膝関節症が進んだ非術側は膝関節痛が残存する症例もあり,非術側膝関節痛は術側と異なる観点で評価していく必要があります.

また発育性股関節形成不全(DDH)による変形性股関節症が原疾患となった人工股関節全置換術(THA)では脚延長や大腿骨と膝蓋骨のアライメントの変化などにより膝前而痛が生じることがあります.

特にCrowe分類がⅢ・Ⅳのような高位脱臼を呈している変形性股関節症例では,人工股関節全置換術(THA)後のQ-angleの変化が膝痛を悪化させていることが明らかにされております.

人工股関節全置換術(THA)は発育性股関節形成不全(DDH)に対して行われることが多く,手術方法が原臼位設置を目的としていれば,股関節中心位置は術前後で変化します.

脚延長の影響で,人工股関節全置換術(THA)後,特に術側の膝関節痛が増悪する症例も少なくありません.

なかでも末期股関節症で外上方への亜脱臼が強い症例は,術前に膝関節痛がなくても,術後に膝関節痛が出現する可能性がありますので,術前から膝痛の発生の可能性を考えた上で評価を行うことが重要と成ります.

 

 

 

 

 

今回は人工股関節全置換術(THA)後の膝痛について考えてみました.

人工股関節全置換術(THA)後に生じる膝痛にはさまざまな影響が考えられますが,術前後のアライメント変化に着目した上で,膝関節痛の原因を考えて対処することが重要だと思います.

 

参考文献

1)Khan AM et al :Hip osteoarthritis :where is the pain?Ann R Coll Surg Eng86(2) : 119-121,2004.

2)Morimoto M et al : Investigation of pain in hip disease patients before and after arthroplasty. J Phys Ther Sci23: 535-538.2011.

3)Sakamoto J, et al : Investigation and Macroscopic Anatomica Study of Refered Pain in Patients with Hip Disease. J Phys Ther Sci26(2) : 203-208. 2014

4)Tokuhara Y, et al : Anterior knee pain after total hip arthroplasty in deveopmental dysplasia. J Arthroplasty26(6) : 955-960, 2011

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