運動による認知症予防効果

介護予防
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目次

 運動による認知症予防効果 

平成30年度の国民生活基礎調査によると要介護原因に占める認知症の割合は第1位となりました.

これまで要介護原因の1位は長年,脳卒中であったわけですが,ついに認知症が脳卒中を抜きトップに躍り出たわけです.

実際に仕事をしていても認知症例が多くなったということを肌で実感します.

以前にMCIに関する記事をご紹介させていただきましたが,認知症はいまのところ不可逆的な機能低下であると考えられておりますので,より早期にスクリーニングし,予防に向けてアプローチを行うことが重要となります

 

最近よく耳にするMCIって何?
私がここ数年で驚いたニュースの1つですが,2016年度の国民健康栄養基礎調査で,要介護原因に占める認知症の割合が第1位となりました. この国民健康影響基礎調査というのは古くから行われておりますが,常に第1位は脳卒中であったのですが,つ...

 

でも認知症予防って何をやったらいいのと思われる方も多いと思いますが,今回ご紹介する論文では歩行時間が認知症発症に影響を与えることが明らかにされており,われわれの指導や介入にも有益な情報であると考えられますので,ご紹介させていただきます.

 

 

 最新研究の紹介① 

東北大学の研究グループによると,65歳以上の日本人を対象に前向き調査を行った結果,日本人高齢者全てが,1日1時間以上歩けば認知症発症の18.1%減少することが明らかにされました.

この研究ではまず,65歳以上の1万3,990人のデータを分析しハザード比を推定しております.

1日の歩行時間(0.5時間未満・0.5~1時間・1時間以上)については自己申告のアンケートから評価が行われております.

公的介護保険データベースを検索し,5.7年間の認知症データを取得し,COX比例ハザードモデルを用いて認知症の多変量調整ハザード比を推定しております.

 

結果としてはまず1日歩行時間は認知症発症と逆相関を示しており,1日の歩行時間が短いものほど,認知症発症率が高いといった結果でした.

また多変量調整ハザード比は,1日の歩行時間が0.5時間未満の者を基準とすると,0.5~1時間の者で0.81,1時間以上の者で0.72と歩行時間が長くなると認知症の発症率が有意に減少することが明らかにされております.

ここで気になるのは歩行時間が長い人というのは身体機能も高い方が多いので,身体機能や元々の認知機能が交絡している可能性も考えられますが,この研究の素晴らしいところは,そういった交絡を含めて考えても歩行時間が長い高齢者ほど認知症の発症率が低いことを5年間という長期間にわたる前向き調査によって明らかにしている点です.

 

この結果から考えると,非常に単純ですが歩行時間を延長すれば認知症予防につながるということになりますので,ポピュレーションアプローチの中でこういった情報をわれわれ理学療法士が積極的に発信していく必要があると考えられます.

認知症に関する理学療法介入と言えば,有酸素運動と二重課題トレーングが主流だと思いますが,やはり習慣的に歩行運動を行い,海馬や前頭葉をはじめとする脳の血流量を増やす方法論が有効なのだと考え裸得ます.

 

 最新研究の紹介② 

もう1つ運動が記憶に与える即時的効果を検討した研究をご紹介いたします.

この研究によると,軽い運動をするだけでも記憶力は向上する可能性が明らかにされております.

健常若年例を対象としたこの研究によると,安静に過ごした場合に比べて,エアロバイクをゆっくりと漕ぐ軽い運動を10分間行っただけでも,運動直後に実施した記憶テストの成績が向上したと報告されております.

 

 

この研究では健常若年例36例を対象に,軽い運動を行った後と安静に過ごした後に2回記憶テストを行っております.

軽い運動はエアロバイクをゆっくりと10分間駆動し,5分以内に記憶テストを行っております.

もう一方の条件では,座った姿勢で安静に過ごしてもらった後,同じく5分以内に記憶テストを行ております.

 

記憶テストは日用品の画像を複数見せて,一般に家の中で使用するものか,外で使用するものかを回答させ,日常生活でよく目にする物体の写真を見せ,その前に提示したものと比べてまったく同じものか,似ているものか,まったく異なるものかを評価させております.

さらに対象とした36例の中から16例を抽出し,記憶テスト中の海馬とその周辺の活動を高解像度の機能的MRIにより撮影しております.

 

結果として軽い運動を10分間行った直後には,安静に過ごした場合に比べて記憶力テストの成績が有意に向上しております.

また機能的MRIを用いた検討では,運動直後には学習や記憶に重要な役割を担う海馬の活動が活発化していることが明らかにされております.

さらに海馬歯状回と周辺皮質との情報伝達が活発化した人ほど記憶力テストの成績が向上しており,軽い運動によって海馬歯状回と大脳皮質の間の機能的結合が増大することで記憶力が向上している可能性が示唆されます.

 

研究の限界としては対象が健常例であることが挙げられます.

即時的にここまでの変化が得られるというのは驚きです.

今後,MCI高齢者を対象とした介入研究が待たれます.

 

参考文献
1)Tomata Y, et al. Int J Geriatr Psychiatry. 2018
2)征矢英昭,他:軽運動による脳の活性化と記憶の増強.神経研究の進歩70:745-752, 2018

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