本庶佑氏のノーベル医学生理学賞受賞から理学療法士が学ぶべきもの

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最近のニュースの中でも,京都大学高等研究院特別教授の本庶佑氏のノーベル医学生理学賞の受賞は,医療分野で勤務するわれわれ理学療法士にとっても非常に影響力のあるニュースではなかったかと思います.今回は本庶佑氏のノーベル医学生理学賞の受賞からわれわれが学ぶべきものについて考えてみたいと思います.

リハビリテーション管理・運営実践ガイドブック [ 金谷さとみ ]

目次

 教科書に書いてあることを信じない 

ここ最近は本庶佑氏も多くのメディアに出現されておりますが,その中でも多く取り上げられているのは,「一番重要なのは不思議だなという心を大切にすること」,「教科書に書いてあることを信じない.常に疑いを持って本当はどうなのだろうという心を大切にする」といった本庶佑氏の言葉です.私自身もこの言葉には感銘を受けましたし,当たり前を当たり前に感じず,常に興味や関心を持って臨床に携わらないといけないと改めて感じました.

 

 教科書を使って勉強しなくてよいということではない 

学生さんがけっこう勘違いしがちなところですが,この本庶佑氏の「教科書に書いてあることを信じない」という言葉は,なにも教科書に書いてあることは勉強しなくていいですよといった意味ではありません.むしろ教科書に書いてあることをきちんと理解した上で,その内容を疑ってみる必要があるということです.そもそも教科書に書いてある理論に疑いを持つためにも,その理論そのものをきちんと理解できてなければ,疑いを持つことさえできないのです.そういった意味ではこの言葉は非常に重みがあるなと思うわけです.

 

 理学療法士の業界におけるパラダイムシフト 

実は理学療法士の世界でも,それまで当たり前だと思われていたことが,いくつかの研究成果によって覆されるということがわれわれの身近なところでもたくさんあります.いわゆるパラダイムシフトってやつですね.ここからはいくつか近年のわれわれの業界におけるパラダイムシフトについて簡単にご紹介いたします

 

装具療法は機能回復を遅延させる

脳卒中片麻痺例に対する装具療法については,既に脳卒中治療ガイドラインでも強く推奨されているわけですが,以前は装具を装着していると機能回復が遅延するとさえ考えられておりました.しかしながらいくつかの研究によって装具を装着した方が,正しいタイミングで適切な筋活動を促通できるといったことが明らかにされたわけです.「装具=諦め=理学療法士の敗北」といったパラダイムが当たり前だったわけですが,こう考えると大きな変化ですよね.

脳卒中片麻痺例に対する筋力トレーニングは痙縮を増悪させる

われわれの業界では古くから片麻痺例に対する筋力トレーニングは,筋緊張を亢進させ痙縮を増悪させるとして,禁忌と考えられてきました.確かに片麻痺の方に筋力トレーニングを行うと一時的には筋緊張が高くなるわけですが,それはあくまで一時的なものでγ運動ニューロンの興奮性を高めるものではない,つまり痙縮を増悪させるものではないことが分かったのです.また筋力トレーニングを行うことで,歩行や日常生活動作にも改善が得られることが明らかとなり,現在では脳卒中治療ガイドラインでも脳卒中片麻痺例に対する筋力トレーニングは推奨されているわけです.これもわれわれの印象から「片麻痺=筋力トレーニング禁忌」といったパラダイムが形成されたわけですが,実は大きな誤りだったわけです.

凹凸の法則に関する誤解

われわれ理学療法士はクライアントの関節可動域運動を行う機会が多いわけですが,関節運動には凹凸の法則と呼ばれる一定の法則があり,全ての関節にこの凹凸の法則が当てはまると考えられておりました.例えば膝関節(脛骨大腿関節)を例にとると,脛骨大腿関節は凹側である脛骨が動きますので,凹側である脛骨は関節運動と同じ方向に運動がおこると考えられてきました.そのためわれわれ理学療法士は膝関節屈曲時には脛骨を後方へ押し込み,膝関節伸展時には脛骨を前方へ引き出すといった徒手誘導をしながら関節可動域運動を行ってきたわけですが,実はこれが真逆であるということが明らかにされたのです.そもそも凹凸の法則というのは関節形状で関節包内運動の方向が決まるといった法則なわけですが,関節周囲には靱帯や関節包といった多くの組織があり,関節運動の方向は関節形状だけで決まるものではないわけです.この凹凸の法則についてもわれわれは当たり前のものだと思って使用してきたわけですが,これが大きな誤りだったわけです.ちなみに脛骨大腿関節に限らず,肩関節(肩甲上腕関節)においてもこの凹凸の法則があてはまらないことが明らかにされております.

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 本庶佑氏の言葉から理学療法士が学ぶべきもの 

このようにわれわれの業界では経験則から当たり前だと思われていたことが,実は大きな誤りであったということが多くあります.まさに本庶佑氏が言われるように「教科書に書いてあることを信じない.常に疑いを持って本当はどうなのだろうという心を大切にする」ということが重要だと思います.また不思議に思ったら,それを検証する姿勢が重要です.もちろんある理論を覆すためにはそれ相応の研究デザインに基づいた理論的な証明が必要になるわけで,非常に骨の折れる作業なわけですが,あなたのちょっとした気付きがパラダイムを変えると考えるとワクワクしませんか?

今回は本庶佑氏のノーベル医学生理学賞の受賞からわれわれが学ぶべきものについて考えてみました.国家試験を控えている学生さんはあまり当たり前を当たり前と考えない習慣が身につくと,勉強がはかどらないかもしれませんので,国家試験の勉強は国家試験の勉強として淡々と学習する必要はあると思いますが,興味・関心を持って学習することこそが,真の意味での学びに繋がるのだということはこの今回は本庶佑氏の言葉に通ずるところだと思います.

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