移動の自立をTUGで決めたらダメですよ!

理学療法評価
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理学療法士の1つの役割として,病棟または施設内の移動方法を決定するといった役割が挙げられます.

理学療法士は基本動作に関してさまざまな医療職の中でも,最も専門性を持った職種ですから,臨床でも看護師や介護福祉士から「○○さん施設内を1本杖で移動しても良いですか?」とクライアントの移動方法について,意見を求められる機会というのは少なくないと思います.

今回は歩行の自立の決定方法について考えてみたいと思います.

 

目次

 クライアントの移動自立における理学療法士の役割 

理学療法やリハビリテーションを通じて,クライアントの歩行能力に徐々に改善が得られると,クライアントは介助歩行⇒監視歩行⇒自立歩行(歩行補助具を使用した修正自立を含む)を獲得していきます.

介助歩行から監視歩行への移行というのは比較的導入しやすい印象がありますが,監視歩行から自立歩行へ移行する際の判断というのは極めて難しいわけです.

多くの場合,歩行の自立度に関する判断は理学療法士に委ねられるわけですが,自立歩行の判断を誤ると転倒リスクが高くなったり,過剰な活動制限による活動性低下を惹起してしまうことになりますので,その判断は慎重かつ適切に行われる必要があります.

 

移動そのものに安静度などの医学的な制限がない場合には,クライアントの歩行自立を認めるか否かの判断には,「歩行自立によって転倒することがないか」を見極めることが一番の鍵となります.

入院しているクライアントの転倒というのは決して珍しいものではなく,入院・入所中の転倒は,機能低下や在院期間の長期化,医療コストの増大を拙く可能性があることから,決して発生することがないよう,注意をはらう必要があります.

臨床では目の前のクライアントの歩行の自立を許可するか否か,選択に悩む場面は少なくありません.

 

 

 カットオフ値を決定して自立度を決定する? 

よくある移動自立の決定方法として,例えばTimed up & Go testが何秒だから自立にするといったような数値で判断する方法があります.

TUGのカットオフ値としてよく用いられる13.5秒を移動自立の基準値とするといった方法に関しては以前に記事でもご紹介いたしましたが,大きな誤りで,13.5秒よりもTUGの遂行時間が長いクライアントであっても,移動が自立しているクライアントは山ほどいます.

 

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前回は転倒予防におけるバランス評価として用いられる頻度の高いFunctional Reach testについて紹介させていただきました. 今回は転倒予防のみならず理学療法評価としても用いられる頻度の高いTimed up and...

 

私自身はこういったカットオフ値を用いて移動の自立度を決定する方法というのは,理想的ではありますが現実はそんなに簡単なものではないと考えております.

自立を考える際には運動機能以外にも,認知機能であったり,環境面であったり,クライアントの性格であったり,さまざまな要因を考慮する必要があります.

したがってTUGが13.5秒未満といった運動機能の側面だけを判断材料にするというのは非常に危険であると考えます.

実際に理学療法士の多くは歩行自立に明確な基準を持っていないことも明らかにされております.歩行自立の判断を考えるうえで,必ずおさえておくべきことは高齢者の転倒リスクを把握することです.

転倒に関連する要因としては移動能力や身体機能の他にも,視覚障害,排尿障害(頻尿等を含む),精神的興奮や混乱,判断力低下,服薬(鎮静剤や睡眠薬)状況,性格などさまざまな要因が挙げられます.

この中でも私が重要視しているのは服薬状況性格です.

運動機能が良好であっても服薬の副作用によって転倒してしまう症例は少なくありません.さらに慎重に行動とするクライアントと無理をしてしまう性格のクライアントでは転倒リスクというのは大きな差が出てきますので,クライアントの性格を考慮することも非常に重要です.

つまり歩行自立の判断を行う際にはこれらの要因を包括的に考慮した上で自立度を決定する必要があります.

 

 

 歩行自立の判断の進め方 

歩行自立の判断をする際に,欠かすことができないのは,実際の病棟や自室での移動動作を評価するということです.

リハビリテーション室のような広いスペースで直線歩行を行う場合と病室の中のトイレのように狭いスペースで短い距離を移動する場合には,歩容というのもまったく異なるものとなります.

したがって前述した転倒リスクを考慮した上で,実際の動作場面での安全性を評価することが重要です.

また歩行自立の判断には,理学療法士の視点のみでなく病棟看護師・介護福祉士にも意見を聞きながら進めるほうが間違いがありません.

尿意を催した場合の歩行というのはわれわれ理学療法士にはほとんど情報が無いわけですし,夜間の移動能力をわれわれ理学療法士が評価する機会というのは皆無に近いでしょう.

私が良く行うパターンとしては,まずは監視下での移動を導入して,数日評価をします.

日々の日常生活を最も観察している看護師・介護福祉士に数日の監視下での移動に関して意見を仰いで,総合的に転倒リスクを評価します.

看護師・介護福祉士に意見を求める場合には,複数のスタッフの意見を求めることが重要です.高齢者の能力というのは日差変動や日内変動も大きいわけですので,いろいろな場面での移動状況に関する情報を得ておく必要があるのです.

 

 

 歩行自立を段階的に進めよう 

歩行の自立を許可する場合には,段階的に自立を許可することも重要です.

病室内自立⇒病棟内自立⇒院内自立といった形です.まずは病室内を自立にしてみて,1週間問題が無く耐久性にも問題が無ければ病棟内も自立にするといったように段階的に移動の自立を許可していくことも重要です.

さらに夜間については能力低下が大きい場合も多いので,まずは日中の移動を許可し,その上で段階的に夜間の移動も自立とするなどの方法が有効です.

 

参考文献
1)Teasell R, et al: The incidence and consequences of falls in stroke patients during inpatient rehabilitation: factors associated
with high risk. Arch Phys Med Rehab 83: 329-333, 2002
2)千葉絵里子, 他: 脳血管障害患者の院内自立歩行許可に関する調査. 北海道理学療法16: 93-95, 1999.

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