診療ガイドラインって何のためにあるの?

投稿者: | 2018年9月22日

理学療法士・作業療法士が関わる様々な疾患別に診療ガイドラインが公表されているのはご存知でしょうか?実は日本では診療ガイドラインを活用している理学療法士というのは非常に少ないことが明らかにされております.欧米の理学療法士の約95%が診療ガイドラインを活用しているという報告がある一方で,本邦における理学療法士のガイドライン活用割合は30-40%程度にとどまっております.欧米というのは医療訴訟も多いので,そういった社会的背景の相違がガイドライン活用割合の相違の原因だと考えられますが,でもそもそもガイドラインって何なのか知らない方も少なくないのではないかと思います.今回は診療ガイドラインについて考えてみたいと思います.

 

診療ガイドラインって?

診療ガイドラインというのは,理学療法士・作業療法士をはじめとする医療者とクライアントが特定の臨床状況で適切な決断を下せるよう支援する目的で,体系的な方法に則って作成された文書と定義されております(Minds診療ガイドライン作成の手引き).診療ガイドラインを使うと,質の高いエビデンスを効率的に収集することができます.

皆さんも何か分からないことや調べたいことがあれば,文献を検索されると思います.文献は大きく分類すると,一次情報とよばれるものと,二次情報とよばれるものに分類することができます.

一次情報

一次情報というのは原著論文のことです.理学療法関連でいえば,協会誌である理学療法学や理学療法科学会が発刊する理学療法科学なんかが原著論文が多く掲載されている雑誌になります.一方で理学療法士が目にすることの多い「理学療法ジャーナル」や「理学療法」というのは総説論文が8割以上を占め,原著論文は少ないといった特徴があります.原著論文というのはデータに基づく結果や考察が記述されているわけですが,総説論文にはデータに基づかない著者の印象や意見といったものも含まれておりますので,科学的な視点で見ると原著論文を抄読することが重要となるわけです.

二次情報

二次情報というのは複数の一次情報(原著論文)をまとめたものです.皆様も耳にされたことがあると思いますが,Systematic ReviewMeta-analysisといったような論文がこの二次情報になるわけですが,今回テーマとして取り上げております診療ガイドラインなんかも二次情報になるわけです.Systematic Reviewというのは同じ疑問を扱った臨床研究を統合した情報を指し,Meta-analysisというのは同じ疑問を扱った臨床研究の結果を統計学的に統合してまとめた情報を指します.統計学的な処理がなされているかどうかがSystematic ReviewとMeta-analysisの大きな相違ですが,Systematic Reviewの中には統計学的な処理がなされたものもあります.診療ガイドラインというのはこのSystematic ReviewやMeta-analysisをさらに統合し,同じ疑問を扱った臨床研究を疾患別にまとめたものです.例えば変形性膝関節症例に対する股関節外転筋力トレーニングの有効性について調べたいと考えた時にPubmedや医学中央雑誌を使って検索をして,ヒットした論文を1つ1つ読んでいくといったのも1つの方法ですが,診療ガイドラインを見てみればそういった内容が既に統合されているかもしれません.診療ガイドラインの作成に当たっては有識者が数年かけて,体系的な法則に則って文献を吟味して,最終的な結論を出します.かくいう私も昨年から日本理学療法士協会が2020年に発刊予定の診療ガイドライン第2版の作成に携わっているのですが,診療ガイドライン作成作業の煩雑さと大変さを実感しているところです.診療ガイドラインの中では,より質の高い研究(無作為化比較試験や無作為化比較試験のMeta-analysis等)を収集し,有識者が最終的な結論を出しておりますので,1つ1つ論文を読むよりも短時間で効率的に情報を入手することができます.

PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法

どんな診療ガイドラインがあるの?

リハビリに関連するガイドラインとしては整形外科疾患でいえばアキレス腱断裂・関節リウマチ・外反母趾・頚椎症性脊髄症・骨転移・上腕骨外側上顆炎・前十字靭帯損傷・大腿骨頚部・転子部骨折・橈骨遠位端骨折・変形性股関節症・腰椎椎間板ヘルニア・腰痛・腰部脊柱管狭窄症に関する診療ガイドラインが公表されております.脳・神経系では筋萎縮性側索硬化症・ギランバレー症候群・認知症・脳卒中・パーキンソン病などに関する診療ガイドラインが公表されております.医師を中心として作成されたこれらの診療ガイドラインですが,実は日本理学療法士協会でも2011年に「理学療法診療ガイドライン(第1版)」が公表されており,2020年には第2版が公表される予定です.第1版の内容を見てみると,背部痛・腰椎椎間板ヘルニア・膝前十字靭帯損傷・肩関節周囲炎・変形性膝関節症・脳卒中・脊髄損傷・パーキンソン病・脳性麻痺・糖尿病・心大血管疾患・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・身体的虚弱(高齢者)・下肢切断・地域理学療法・徒手的理学療法と幅広い分野の理学療法に関する診療ガイドラインが公表されております.私自身も理学療法診療ガイドラインを活用しておりますが,医師を中心として作成された診療ガイドラインよりもClinical Questionがわれわれ理学療法士目線のものが多く,非常に参考になります.日本理学療法士協会員であれば,マイページから無料で閲覧でき,臨床業務の忙しい合間でも簡単に情報を得られますので,これを活用しない手はありません.

 

診療ガイドラインをなぜ活用しないのか?

私自身は診療ガイドラインが活用されない一番の原因は,まだまだ臨床上有益なClinical Questionが少ないためであると考えております.例えば大腿骨頸部・転子部骨折に対する診療ガイドラインの中で,大腿四頭筋トレーニングが機能回復に有効であると記載されておりますが,こんなことはその分野の理学療法士や作業療法士であれば誰もが知っていることですし,そもそも大腿四頭筋トレーニングで機能回復が得られるような症例というのは,苦労することもないわけで,ガイドラインを見る必要もありません.診療ガイドラインが臨床で活用されるようになるためには,もう少し臨床に即した研究が増えていくことが望まれます.また診療ガイドラインの対象になるのは無作為化比較試験が主ですが臨床では倫理的にも無作為化比較試験が実施しにくい面があり,こういった側面が臨床上有益な研究が増えていかない1つの理由であると考えます.さらに診療ガイドラインは教典ではありません.したがって内容を遵守するといったようなものではありません.われわれは診療ガイドラインに記載があっても内容を批判的に吟味しつつ,クライアントの意向を踏まえて理学療法や作業療法を実践していく必要があります.

診療ガイドラインを見ないといった理学療法士の中には,クライアントには個別性があるので,集団を対象として導き出された結果だけを見ても役に立たないと考える方も多いと思います.ここで重要なのはガイドラインやエビデンスを重視するという姿勢は決して個別性を軽視する行為ではないということです.集団の特徴が明らかになっていなければそもそも個別性は明らかになりませんし,こういった集団というのは一般的にこうだけどこのクライアントはこうだといった特徴そのものが個別性ですので,エビデンスや診療ガイドラインをもとに集団の特徴を把握しておく作業は非常に重要です.特に理学療法士・作業療法士が行う理学療法・作業療法というのは薬物療法などと比較すると自由度が非常に高く,最も効果的と思われる方法を暗黙的に決定していることがほとんどです.つまりクライアントの意志に基づくものではなく,理学療法士・作業療法士によって決定がくださされる傾向があります.そういった意味でも診療ガイドライン基づいてクライアントに治療方法を選択してもらうといったような診療の方法が今後必要になってくると思います.

PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法

今回は診療ガイドラインについてご紹介いたしました.まずは身近な疾患の診療ガイドラインについて閲覧してみるとガイドラインが身近なものになると思います.

参考文献
1)Fujimoto S , et al: Attitudes, knowledge and behavior of Japanese physical therapists with regard to evidence-based practice and clinical practice guidelines: a cross-sectional mail survey. J Phys Ther Sci 29: 198-208, 2017

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